女性泌尿器科とは
当院では、尿路(腎臓、尿管、膀胱、尿道)でみられる異常や病気を中心に、女性泌尿器も診療いたします。
女性と男性では、生殖器の構造や体の仕組みが異なるため、女性特有の泌尿器疾患が存在します。例えば、女性は男性と比較すると尿道が短く、細菌が逆流しやすくなっているという特徴があります。これにより、膀胱などに炎症が起こり、膀胱炎に罹る方が多いです。
また、骨盤内の臓器(子宮、膀胱、直腸 等)を支えるほか、尿道をしっかり閉じることで尿漏れを防ぐ働きを持つ、骨盤底筋群という筋肉群があります。この骨盤底筋群が、加齢や出産の影響で弱まると臓器が体外に飛び出したり、お腹に力を入れるだけで尿が漏れやすくなったりすることもあります。
これら泌尿器疾患は、恥ずかしさもあって受診を躊躇してしまう方も少なくありません。ただそのまま放置しておくだけでは、症状を悪化させるだけですので、どうか勇気をもってお早めにご来院ください。
女性患者さまがよく訴えられる主な泌尿器症状
- 尿漏れ
- 頻尿(夜間頻尿)
- 残尿感がある
- 血尿(尿に血が混じっている)
- 腟の外に丸いものがよく脱出する
- 足がむくんでいる
- 腰背部に痛みがある
- 腎臓の辺りに痛みを感じる
- 尿道から膿が出ている
- 健診などで、血尿や蛋白尿を指摘された
- 尿路(腎臓、尿管、膀胱)から結石が見つかった
- 慢性骨盤痛症候群(明らかな原因が無いのに、下腹部痛がある)が疑われる
- など
頻尿
頻尿とは、排尿回数が増加している状態を指します。そもそも、排尿回数は個人差が大きく、また年齢、季節、水分の摂取量などにより、大きな差が生まれます。成人の平均的な排尿回数は日中4~6回程度とされており、これが8回以上となると、頻尿の可能性が考えられます。
頻尿の原因は一つではありません。まず、膀胱に貯められる尿量が物理的に減少したり、膀胱の伸展性が低下したりすることで生じる、器質的な膀胱容量の減少が挙げられます。これは、主に腫瘍や妊娠によって、膀胱が圧迫されることで起こるといわれています。また、過活動膀胱や、尿量が何らかの原因(尿崩症、糖尿病、心因性多飲症 等)で増加することで生じる多尿による頻尿、膀胱炎や膀胱結石などによって、膀胱粘膜が刺激されることで起きる頻尿というケースもあります。そのほか、尿排出障害(神経因性膀胱などが原因)によって残尿が生じ、蓄尿できる量が減少するなど、機能的な膀胱容量の減少も考えられています。
尿漏れ(尿失禁)
尿漏れとは、自分の意思と関係無く尿が漏れてしまう症状のことです。主に腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁の2つの原因が考えられます。
腹圧性尿失禁とは、咳やくしゃみ、あるいは階段や坂道を下りる際に起こる尿漏れのことで、女性特有の症状でもあります。まず女性の体の仕組みとして、腹部に強い力が加わると、膀胱と尿道を支えている骨盤底筋という筋肉が働き、尿道が締まります。これによって尿漏れを防いでいるのですが、この筋肉が弱ったり傷んだりすると、腹圧性尿失禁が起こります。このタイプの尿漏れは、40歳以上の女性の4割以上が経験しているといわれています。軽症の場合は、骨盤底筋を鍛える体操や、尿道を引き締める効果があるとされる薬などを用いて、症状の改善を目指します。
一方の切迫性尿失禁は、何の前触れもなく急におしっこがしたくなり、トイレまで間に合わずに漏れてしまうという疾患を指します。膀胱を制御する神経が異常をきたすことで起きるとされる、過活動膀胱(OAB)が原因といわれています。過活動膀胱は、加齢(40歳以上)や精神的なストレス、溜まった尿量を感知する膀胱内のセンサーが過敏になるなどの要因によって引き起こされると考えられています。治療に関しては、膀胱の過剰な収縮を抑える薬や膀胱容量を広げる薬の服用、生活指導として膀胱訓練を行うといったことがあります。
過活動膀胱
膀胱に尿が十分溜まっているわけでもないのに、神経の異常などによって膀胱が刺激を受け、突然の尿意切迫感や切迫性尿失禁、頻尿や夜間頻尿などの症状がみられる状態(畜尿障害)を過活動膀胱といいます。日本では、40歳以上の男女のうち約12%の方が発症しているとされ、その約半数の方に切迫性尿失禁を伴うといわれています。
発症原因に関しては、何らかの中枢障害や脊髄障害による神経因性のほか、非神経因性のケースも考えられます。女性であれば、骨盤底筋群の衰弱による骨盤内臓器脱、更年期における閉経などによる女性ホルモン不足から膀胱が過敏になり、収縮しやすくなるということがあります。男性の場合は、前立腺肥大症をきっかけに尿が出にくくなったことによる膀胱の過敏反応などが挙げられます。
過活動膀胱が疑われた際には、まず過活動膀胱症状質問票(OABSS)などを用いて、頻尿などに関する自覚症状を確認していきます。その上で、腹部超音波検査で尿路(腎臓、尿管、膀胱)の状態を調べるほか、尿検査や、残尿測定(排尿後、膀胱内に尿がどれだけ溜まっているかを確認する)によって、何らかの病気を発症していないかなどを確認していきます。
検査の結果、膀胱に炎症、結石、腫瘍がみられない(ほかの疾患である可能性がない)場合に、過活動膀胱と診断し、治療として行動療法や薬物療法を行っていきます。
行動療法では、日頃の生活習慣の見直し(水分やカフェインの摂取を適切な量とする 等)、膀胱訓練(排尿の間隔を徐々に長くしていき、尿を膀胱に溜められるようにしていく 等)、骨盤底筋訓練などを進めていきます。
薬物療法では、膀胱が過剰に収縮する状態を緩和する働きがある抗コリン薬や、膀胱容量を増加させることができるとされるβ3刺激薬などを用いて、頻尿や尿意切迫感などの症状が出にくい状態にしていきます。
膀胱炎
その病名の通り、膀胱に炎症が起きている状態を膀胱炎といいます。尿道から細菌が侵入することで発症する急性膀胱炎をはじめ、出血を伴う出血性膀胱炎(ウイルス感染によって引き起こされることが多く、細菌や免疫抑制薬など薬剤の影響の可能性もある)、膀胱炎が持続することで起きる慢性膀胱炎(前立腺肥大症や尿路結石などの基礎疾患、細菌などが原因)、原因が特定できない間質性膀胱炎などもあります。
膀胱炎の中でも患者数が最も多いとされるのが、急性膀胱炎です。原因の大半は大腸菌で、構造上尿道が短い女性の患者数が多いです。主な症状としては、排尿時の痛み、頻尿、残尿感、尿の臭いが強いなどがあります。なお、細菌が膀胱よりも上にある腎臓に達する(上行感染)と、発熱、腰痛、下腹部痛、嘔吐・吐き気などの症状がみられ、この場合は腎盂腎炎と診断されます。慢性膀胱炎は、急性と比べると症状の程度は軽いといわれています。そのほか、出血性膀胱炎では血尿の症状もみられ、間質性膀胱炎では、頻尿や下腹部の不快感、尿が溜まることによる膀胱(腹部)の痛みを感じることもあります。
膀胱炎が疑われる場合、尿検査で尿中に含まれるとされる細菌の有無や白血球の数を確認するほか、尿細菌培養検査も行っていきます。また、膀胱が慢性的に炎症を起こしている場合は、尿路(尿管、膀胱、尿道)を調べる検査として、超音波検査や膀胱鏡検査などを用いて、何らかの病気が発症していないかを調べます。
細菌感染による膀胱炎であれば、抗菌薬(ニューキノロン系 等)の内服による薬物療法を一週間程度続けると症状は治まるようになります。
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骨盤臓器脱
主に出産や加齢、肥満、便秘などが原因で、子宮、膀胱、直腸などを支える骨盤底の筋膜や靱帯が緩んでしまうと、これらの臓器が正常とされる位置よりも下がるようになります。さらに、臓器が膣壁ごと骨盤外に脱出している状態になると、骨盤臓器脱と診断されます。なお、子宮が膣口から脱出している場合は子宮脱、膀胱が脱出していれば膀胱瘤と呼ばれます。
症状が軽度の段階では、自覚症状が出にくいですが、ある程度進行すると、下腹部や外陰部の違和感、尿意切迫感、頻尿、性器の下垂感、尿失禁などがみられるようになります。
特別な検査は必要なく、視診と内診を行うことで確定診断をつけることができます。
治療としては、軽度であれば骨盤底筋を鍛えるトレーニング(骨盤底筋体操)で改善が見込めることもあります。また保存療法として、ペッサリーと呼ばれるリング状のシリコン素材の器具を膣内に挿入し、臓器が落ち込まないようにする方法もあります。ただしこの場合は、ある一定の間隔でペッサリーを交換しなければ、膣粘膜に炎症が起きることがあります。
上記の保存療法で改善しない場合には、手術療法を行います。方法としてはいくつかありますが、その一つに腹腔鏡下仙骨膣固定術(LSC)があります。これは、腹腔鏡で部分的に子宮を切除し、膀胱と膣の間、膣と直腸の間をメッシュで固定することで、膣を引き上げ、仙骨に固定するという手術です。